ベランダにオランウータンがいた

夢の中で僕は、昔家族と住んでいたマンションの部屋にいて、開けっ放しのベランダに面した窓からは、オランウータンの赤ちゃんがハイハイで侵入してくるところだった。

 

僕は慌ててオランウータンの赤ちゃんを両手で抱え、足でがらがらと窓を開けてベランダに出た。柔らかい毛の生えたオランウータンの赤ちゃんは聞き分けのいい子犬のようにおとなしく、僕の手の中で不思議そうに辺りを見回していた。

 

斜め下の部屋のベランダにオランウータンがいた。色素の薄い茶色の毛が生え、手足はロープのように長い。ゆったりとした動きで、ベランダの柵に絡みつくアイビーの葉を指先で撫でていた。

 

僕は両手に持った赤ちゃんを、そのオランウータンに見えるように掲げた。オランウータンは驚き、その長い両腕を柵越しにこちらへ伸ばしてきた。

 

僕も柵越しに目一杯体を乗り出し、両腕を伸ばし、すると両手にいる赤ちゃんも両腕を伸ばした。3人分の腕の長さがついに1フロア分の距離を乗り越え、赤ちゃんは母の腕に取り付いた。救助用のクレーン車のように、長い腕がゆっくりと折り畳まれながら遠ざかっていった。

 

 

目を覚ました僕は20分くらいかけてのそのそとベッドから脱出し、洗面所でうがいをし、服を脱ぎ捨ててシャワーの栓をひねり、お湯が出てくるのを待った。手早く髪と顔を洗って化粧水を顔面にぶつけ、髪を乾かし、服を着てリュックを背負って家を出て、満員電車に乗って会社に行った。

 

オフィスビルの中のトイレで用を足しながら、僕はオランウータンのことを考えていた。

 

夢の記憶というのは記憶保持の優先順位がものすごく低いらしく、ほとんどの夢は起床からほどなくして忘れられてしまうという。

 

でも僕の中にはたしかにオランウータンの親子がいた。

 

僕が起きてすぐに彼女らのことを忘れてしまったとして、それでもどこかであの親子は生き続けるのだろうか。もう2度と見ることはないかもしれない夢の中で、三宿のマンションのベランダで、グリーンカーテンを愛でながら。

 

オランウータン。

 

あの優しい目。