夜の飯田橋と銭湯、あるいは川底の街

日曜日だったけど日程の動かせない仕事があり、午後から夕方まで働いていた。仕事を終え、飯田橋でカレーを食べながら僕は、「今日は銭湯に行くしかない」と思っていた。

日曜夜の飯田橋は人影もまばらで、閑古鳥の鳴く鳥貴族以外にはほとんど居酒屋も閉まっており、どことなく閉園したテーマパークを思わせた。

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冷え込む夜だった。平日は酔客や学生であふれる通りはがらんとして冷たい風に吹かれるがまま、巨大商業施設「サクラテラス」の近未来的なビルは夜の底から遠くを見渡すように沈黙して立っている。僕はどこか深い川の底を思い浮かべた。冷たい水の流れの中を泳ぎながら、川岸の大きな木を見上げているようだった。

夜の飯田橋が川の底だとすれば、カレー屋「YAMITUKIカリー」はウナギの住処のように、ビルとビルの間をくりぬくように存在していた。バー風の店内は奥まで続くカウンター席のみで構成されている。客は誰もいなかった。

僕はここでバターチキンカレーを食べた。

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昨日ひどく飲酒し、二日酔いを引きずったまま半分眠ったように業務をこなしていた僕は、このカレーを食べて初めて人間としての活動を送ろうという気になった。とはいってももう夜と表現して差し支えのない時間だ。昨日の今日で酒を飲む気にもならない。そもそも明日も仕事だし。あと外はすごく寒い。ならば、

銭湯に行くしかない。

カレー屋を出て夜の川底を泳ぎ、地下鉄のホームに潜り込み、膨れた腹を抱えて僕は家路を急いだ。

本記事は加筆修正のうえ『さよならシティボーイ』に収録されています。WEBでの公開は停止しております。


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筆者: すなば
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