大丈夫になった日
立ち上がると足が震えるほどテレビゲームをやって、エコバッグに財布だけ入れてアパートの外階段を下り自転車にまたがった。
暮れかかった空は薄青く、その色を写し取ったような涼気が辺りを満たしていた。
水彩画のような空に浮かぶ月を見た。満月に少し足りないその月は、空を満たす心地よい液体の海からゆっくりと浮上しつつその姿を現しているように見えた。
少し離れたセブンイレブンで蒙古タンメンのカップ麺を3個買った僕は、坂道を自転車で駆け下りながらまたその月を見た。
風は渦を巻きつつ僕の後方へ流れ、坂の下で自転車を止めると空気もまた水面のように静止した。
イヤホンを着けた太った男性と並んで信号を待っている間、僕は「大丈夫になった」と小さくつぶやいた。
本記事は加筆修正のうえ『さよならシティボーイ』に収録されています。WEBでの公開は停止しております。
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筆者: すなば
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