武蔵小杉で夢を聞いてきた彼女のこと

入梅から数日経って、池の底にだんだん沈んでいくみたいに、初夏の熱く乾いた空気が日ごと湿って冷えていく。気温が下がりきると、今度は水温に慣れた体が内側から熱を帯びてくるようにじわじわ蒸し暑くなる。そんな日に僕は、普段は寄り付かない駅の近くで喫茶店に入って人を待っていたことがある。何年か前、大学を卒業してそんなに経っていない頃の、今日みたいな雨の日だ。

待ち人は歳の近い女性で、名前はもう覚えていないが仮にユミコとしよう。ユミコは大きな目と日焼けした肌が印象的な、活動的でかわいらしい感じの人だった。

本記事は加筆修正のうえ『さよならシティボーイ』に収録されています。WEBでの公開は停止しております。

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筆者: すなば
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インターネットでの争いについて(踊るのをやめてしまったサボテンに捧ぐ)

もうずいぶん昔の出来事のように思えるが、2月の中頃にサボテンが踊るのをやめた。

この頃、東京では長い冬の出口が見え始め、季節が変わるのを予告するように、何日かに一度は潤んだ南風が吹く朝があった(ワニもまだ生きていた)

足音が聞こえるほど近くなった春を待ちながら、ふいにタイムラインに現れたこのツイートを見て、僕は胸を締め付けられた。泣き笑いのような顔になった。

サボテンは踊るのをやめてしまったのだ。

古い友人の訃報を告げられたような気持ちだった。表面的にはおもしろがってはいても、心のどこかで皆が実感をもってこの事実を受け止めざるを得なかったから、川崎氏(@_rotaren_)のこのツイートもここまで拡散されたのではないかと思う。本人の意思はともかくとして(他意のない軽口が本質を突いてしまうことはしばしばある)

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「権力」の気配と丁寧な暮らし

COVID-19が直接あるいは間接的に自分や身の回りの人の生活を制限するようになってから、Twitterで呟くことがずいぶん減った。呟こうと思うことが何一つ「本当でない」気がしたのだ。

普段は何食わぬ顔でツイートしている生活や風物やカレーのことについて、そのことよりももっと大事な、言及すべきことがあるような気がしてならなかった。誰から求められているわけでもないけど、その何かを知らんふりしてツイートボタンを押すのは不誠実な気がした。

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