自己紹介が苦手 - 『さよならシティボーイ』刊行二周年に寄せて

自己紹介が苦手なのだ。 会社員を十年もやっていると、初対面の人間に自己紹介をする場面がそれなりに増えてくる。「○○部○○担当の○○です」みたいな紹介なら別に何ということはないのだけど、プロジェクトの懇親会と銘打って開催される半分オフィシャルな大人…

この一年何をしていたか - 『さよならシティボーイ』刊行一周年に寄せて

2022年10月8日、『さよならシティボーイ』が刊行から一年を迎えた。その日僕は後輩の恋人が出演する声楽のリサイタルを聴きに行っていて、この重要な記念日のことは綺麗に忘れており、後から聞いてみれば編集者の西川タイジさんも例外ではなかった。九月辺り…

『さよならシティボーイ』重版のお知らせ、そしてボーイは30歳に

お陰様で拙著『さよならシティボーイ』が重版となった。お買い求めくださった皆様には感謝してもしきれない。感謝の気持を込めて、明日十二月六日の正午までの予約分は、送料無料でお届けすることにした。まだ手に入れていない方はぜひこの機会にご一読いた…

単著エッセイ集『さよならシティボーイ』刊行のおしらせ(あるいはこれまでのことぜんぶ)

タイトルの通り、初の単著を刊行したのでこのブログでおしらせする。というか、遅すぎたかもしれない。後述するが単著を出せるのは完全にこのブログ「僕の詩を返せ」のおかげであって、本来なら刊行が決まった瞬間にこういう記事を書くべきだった。ブログへ…

猫の生、詩の嘘

実家では猫を二匹飼っていて、いやこの表現は正確ではなく、僕はかつて猫を二匹飼っていて、僕が家を出た時、自然にその二匹の猫の命は父と母に託された。そのうちの一匹が少し前に生涯を閉じた。一月の終わりのことだった。 本記事は加筆修正のうえ『さよな…

チリはたまる、心は散らかる

在宅勤務が中心の生活になると、家事をよくするようになる。ここ一年間で急激に起きた生活の変化のうち、数少ない良かったことのひとつだ。 本記事は加筆修正のうえ『さよならシティボーイ』に収録されています。WEBでの公開は停止しております。 - - - - - …

武蔵小杉で夢を聞いてきた彼女のこと

入梅から数日経って、池の底にだんだん沈んでいくみたいに、初夏の熱く乾いた空気が日ごと湿って冷えていく。気温が下がりきると、今度は水温に慣れた体が内側から熱を帯びてくるようにじわじわ蒸し暑くなる。そんな日に僕は、普段は寄り付かない駅の近くで…

インターネットでの争いについて(踊るのをやめてしまったサボテンに捧ぐ)

もうずいぶん昔の出来事のように思えるが、2月の中頃にサボテンが踊るのをやめた。ㅤㅤ ₍₍⁽⁽₎₎⁾⁾見て!サボテンが踊っているよかわいいね みんながインターネットで争ってばかりいるので、サボテンは踊るのをやめてしまいましたお前のせいですあ〜あ— 川崎 (…

「権力」の気配と丁寧な暮らし

COVID-19が直接あるいは間接的に自分や身の回りの人の生活を制限するようになってから、Twitterで呟くことがずいぶん減った。呟こうと思うことが何一つ「本当でない」気がしたのだ。普段は何食わぬ顔でツイートしている生活や風物やカレーのことについて、そ…

春がすぎれば

朝起きてシャワーを浴び自転車の手入れをして、スーパーマーケットに出かけて買い物をしてそれからずっと家にいた。映画を見て料理をして掃除をしても時間は余る。文章を書こうとするが、どれもこれも自分が書くべき文章のように思えず消してしまう。 本記事…

日々は日々の桜並木

外でおちおちくしゃみもできないので、家の中で爆音のくしゃみをした。くしゃみ。この牧歌的な生理現象に、今何よりも恐ろしい形容がついてまわっている。自分の体液に、大切な人を死に追いやる粒子が入っている可能性なんて、今まで誰が意識したことがある…

メジロを拾った日

自宅から1kmくらい離れたところにある大型の郵便局に受取人指定郵便物を取りに行く途中、歩道に面したビルのガレージに、よもぎ色のふわふわしたものが落ちているのが見えた。メジロの死骸だった。 本記事は加筆修正のうえ『さよならシティボーイ』に収録さ…

すなばという書き手について

※2021/10/16: 単著発売に合わせ改稿。 プロフィール 趣味で書いているもの ブログ 小説(note) 自由律俳句 短歌 仕事で書いたもの 紙 さよならシティボーイ エンドロール 『飛ぶ教室』寄稿 WEB 甲類ビール 親子の絆の深め方(タイアップ) 終電と私 イベント…

眠る前の話

何かやり残したことがあるような気がして眠る気になれないのに、体が勝手に非生産的なことを始める。漫然とスマホをもてあそぶ。文庫本を開いてろくに読まないまま机に置く。ソファの上であぐらをかいたり足を下ろしたりする。音楽を聞きたくなってスピーカ…

傷つけられた人へ

誰かのしたことでちょっと傷つくことがあった。それを猛烈に批判する意見をTwitterで見かけ、ついその意見に乗っかって、傷つけられた悲しみを呟いて怒りを表明しそうになった。が、すんでのところで僕はそれをこらえた。地下鉄に揺られながら、何度も何度も…

「私、結婚できるのかなぁ」

Instagramを見たら高校生の時に付き合っていた女の子が結婚していた。特別な感慨もなくいいねをしてから1ヶ月くらい経った今、彼女が僕に別れを告げるとき「私、結婚できるのかなぁ」と言っていたのを唐突に思い出した。 本記事は加筆修正のうえ『さよならシ…

大丈夫になった日

立ち上がると足が震えるほどテレビゲームをやって、エコバッグに財布だけ入れてアパートの外階段を下り自転車にまたがった。暮れかかった空は薄青く、その色を写し取ったような涼気が辺りを満たしていた。水彩画のような空に浮かぶ月を見た。満月に少し足り…

心に「ギャル」「OL」「ボーイ」を住まわせる

毎日を機嫌よく過ごすことから全てを始めなければいけないと思った。複数のプロジェクトのピークが重なり会社で個人的繁忙期を迎えていた僕は、ここのところ激流を遡行する鮭のようにかろうじて毎日を生きていた。朝起きる。シャワーを浴びる。会社に行く。…

高校を卒業してから21歳になるまでの自分を殺してしまったことについて

初めて詠んだ自由律俳句は あんなカーテンがほしいと空を見てで、それが詠まれたのは高校2年生の春だった。その時習っていたこと、100m走のタイム、友人関係、ヒットソング、何一つ覚えていないけど、「あんなカーテンがほしいと空を見て」という句が生まれ…

エモいとは何なのか

気付けば皆「エモい」と言うようになっているがそもそも「エモい」ってどういう意味なんだろうか。という素朴な疑問に「古語の"をかし"や"あはれ"と同じだよ」みたいなことをしたり顔(想像) で返す人もいるが、微妙に納得できるようでできない。"をかし"が日…

幸せを問いかけてくれた人へ

少し前からTwitterで質問箱を公開していて、ゆっくりと答えている。質問に答えるというのはいつだって楽しい。今まで答えた質問の中のひとつに、こんなものがあった。 小さなしあわせを大事にするのは寂しいことですか? 回答する時もずいぶん悩んだけど、あ…

「笑ってもブス」

僕には弟子がいる。ここでは彼をN君と呼ぶ。どこでどのように弟子をとったのかとかそういう話は置いておいて、N君も自由律俳句をたしなんでいるのだが、彼は5年ほど前、弱冠19歳にして僕が生涯超えることのできないであろう傑作を詠んだ。 笑ってもブス この…

人が死ぬということ

大杉漣の訃報をニュース速報としてスマートフォンが受信したとき、僕は人のまばらなオフィスで残業をしていた。デスクでひとり控えめに驚いて、区切りのいいところまで仕事を進めて退社し、成城石井で夕飯を買って家に帰って食べた。シャワーを浴びて歯を磨…

メルカリに売られないプレゼントの選び方

(※急いでいる人は太字だけ読んでください)竹内まりやも歌い始めているが1年で最大のギフトシーズンが今年もやってくる。メルカリをはじめとしたフリマアプリの普及により「いらないプレゼントの見える化」が爆発的に進んだ結果、昨年は怨嗟の声があらゆる方…

夜の飯田橋と銭湯、あるいは川底の街

日曜日だったけど日程の動かせない仕事があり、午後から夕方まで働いていた。仕事を終え、飯田橋でカレーを食べながら僕は、「今日は銭湯に行くしかない」と思っていた。日曜夜の飯田橋は人影もまばらで、閑古鳥の鳴く鳥貴族以外にはほとんど居酒屋も閉まっ…

ベランダにオランウータンがいた

夢の中で僕は、昔家族と住んでいたマンションの部屋にいて、開けっ放しのベランダに面した窓からは、オランウータンの赤ちゃんがハイハイで侵入してくるところだった。 本記事は加筆修正のうえ『さよならシティボーイ』に収録されています。WEBでの公開は停…

BUMP OF CHICKENについて語るときに僕の語ること

僕くらいの歳の人間がBUMP OF CHICKENについて語り始めるときの、あの初恋を思い出す老人のような声の震えは何なのだろう。 本記事は加筆修正のうえ『さよならシティボーイ』に収録されています。WEBでの公開は停止しております。 - - - - - 筆者: すなば →T…

プラネタリウム

※以前やっていたtumblrからの再掲です 記: 2014年8月最近イヤホンを買った。買ったというか変えた。大学生の時に使っていたやつがついに聞こえなくなってしまったので、思い切って値段も評判もいいヤツにした。前のイヤホンが4個買える。 本記事は加筆修正の…

"職業"+"アイテム名"のファッションアイテムはかっこいい

ファッションアイテムの名前はかっこいい。特に、"職業"+"アイテム名"という建てつけでできている名前は最高だ。 本記事は加筆修正のうえ『さよならシティボーイ』に収録されています。WEBでの公開は停止しております。 - - - - - 筆者: すなば →Twitterアカ…

『パターソン』感想 - ポエムを笑う人も詩に生かされている

角川シネマ新宿で、映画『パターソン』を観た。paterson-movie.comTwitterのタイムラインで「見た。よかった」と言っている人が多かったのと、週末の予定がたまたま決まっていなかったのと、公式サイトを覗いてみて好きそうな雰囲気な映画だったので、なんと…