ラッパーの遺言

ラッパーの遺言を聞いた。

 

「YO……YO……」

 

うん、うん。

 

「YO……俺は……」

 

うん。

 

ラッパーは僕の腕の中で息絶えようとしている。

自慢のドレッドヘアは、枯れ果てて茶色く変色しパリパリだ。

 

彼はすべての力を振り絞って、僕に最期の言葉を遺そうとしているのだ。

 

「俺はラッパー 最後までLOVER 今際に残す u wanna this song?」

 

彼の最後のライムが紡ぎ出される。

 

僕はそれを聞くより他にない。

 

「俺はso 最初から最後まで 今日までずっと」

 

彼の言葉は、いや、ライムは、韻を踏むのをやめた代わりに不思議なリズムを帯びてきた。

 

「生きていたかった それだけで良かった お前がいたから 俺は生きていられた」

 

J-POPだ。

 

僕は激怒した。

 

「ねえ、それはJ-POPだよ」

 

ライムは止まない。彼の魂は止められない。誰も彼を足止めはできない。

 

「yeah, 俺の目に光 寝る前に思うあの村落に お前がいたから 俺がいて お前が戦い俺がいて」

 

「俺は ha お前だけで良かった 本当はただそれだけで良かった お前の幸福が俺のHOOK お前が笑うとそれが叶う」

 

僕はぼろぼろと涙を流していた。何のための涙なのか、全然わからない。相変わらずその歌詞は薄っぺらくて意味不明で、でもライムとしては……。

 

「なぁ俺は あの日通ったユミちゃんに 気づいてほしいだけだったんだ」

 

ラッパーはそう言い残して絶命した。

 

僕は空っぽのハウスミュージックで踊る人々に紛れ、彼の死をただ悼んだ。