ファッションアイテムの名前はかっこいい。
特に、"職業"+"アイテム名"という建てつけでできている名前は最高だ。
オフィサージャケット
ポストマンシューズ
フィッシャーマンセーター
かっこよすぎる。
ファッションデザイナーの小野塚秋良は、「本当に格好いいのは背景に"矜恃"があるもの」だと言った。
たとえば、トレンチコートが元々塹壕で戦う兵士のための服であることは有名だ。ベルトについた金具は手榴弾を携帯するためのものだし、ショルダーストラップにボタンが付いているのは、水筒や双眼鏡、仲間の死体にくくり付けた紐なんかを引っ掛けて歩くためだ。そもそも「トレンチ(Trench)」とは塹壕のことだ。なんてハードボイルド。鏖戦を生き抜くための装備が時を経て、ビジネスパーソンの天候を選ばぬ定番コートになっているのは偶然ではないだろう。「嵐の泥濘を戦い抜く」。これがトレンチコートの矜持だ。その防水性にも、丈にも、一つひとつの意匠にも、確信めいた必然性がある。
ファッションアイテムの名前になっている職業はかっこいいと思う。ポストマンシューズを履いている郵便配達員、フィッシャーマンセーターを着ている漁師、エディターズバッグを持っている編集者(これは微妙かもな)。
サービスコートもいい。ショップコートという呼び方がメジャーだけど、サービスコートの方が好きだ。工場とかガソリンスタンドのワーカーが着るコートだけど、作業着ではない。来客などがあった際、汚れた作業着の上に羽織って対応するための服である。だから土臭い中にもしゃれっ気がある。かつ、埃をよける機能性もあり、本格的なものだとポケットの手前の布に穴が開いている。手を突っ込んで、コートの下の作業着のポケットから工具を取り出せるようになっているのだ。パンツのポケットに入れたiPhoneを取り出すのにも重宝する。
それらはみな"古き良き職業"といった趣があって、今どきは来客対応があるようなワーカーはスーツの上に作業着だし、フィッシャーマンはモンベルの高機能アウターを着ているし、ポストマンはスニーカーを履いている。
何か現代の職業で、ファッションアイテムの名前になるようなものはないだろうか。
最近できた職業というと、やっぱりIT関係だろうか。プログラマーシャツ。絶対チェック柄だ。コーダーズバッグ。これはそれっぽい。ノートPCとかバッテリーとかが色々が入る高機能なやつだろう。
思いつくのはそれくらいで、マーケターも投資家も"服装"のイメージには結びつかない。営業マンはスーツだし、メディア界には"プロデューサー巻き"なるものがあるにはあるが、着方であってアイテムではない。つまり、職業が服装の機能的要請に直接結びつくような時代は終わったということなのだろう。ホワイトカラーはみんなスーツかTシャツにパーカー、そうでなければ好き勝手な服を着て働いているのだ。だから僕は明日も着る服に悩む。
左から、ダナーのポストマンシューズ、キャレイグ ドンのフィッシャーマンセーター、LEEのショップコート。ワーク由来のファッションの良いところは、クラシカルで堅牢な本流のモノでもそんなに高くないところですね。
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筆者: すなば
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