もう「モテるでしょ?」って聞くのやめませんか

飲み会でわいわいと楽しく飲んでいる。

ツヨシくんが元カノの話をしている。

はちみつジンジャーハイボールを飲みかけた女の子がジョッキを持った手を下げて、「でもツヨシくんモテるでしょ?」と聞いた。

ツヨシくんは「いや~~モテないよ全然」と答えた。彼の目から光が失われていく。
隣でヤマシタさんが、自分にも「モテるでしょ?」と聞いてほしそうな顔をしている。

もう、よせ。

僕はホッピーを執拗に混ぜながらその話を聞いていた。

大体「モテるでしょ?」と聞かれて「うん、モテるよ」と答える男がどこにいるのか。

いや、いることにはいるのだろうが、そういう人は聞くまでもなく「あ、この人はモテるんだろうな」と分かるような恋愛強者か、すごいバカかのどっちかだ。よってレアケースとして省いて考える。

程度の差は置いておいて、さして恋愛強者でもない男が「モテるでしょ?」と聞かれたとき、とれるリアクションは少ない。

最もオーソドックスな返しは、ツヨシくん式の「いや~モテないよ」だ。もはや様式美とも言える。

合コン式の会話に慣れた男性なら、「俺って〇〇な女の子にはモテるんだよね~」とかなんとか言って自虐(風自慢)の話に持っていき、その場の流れを掌握できるかもしれない。しかし、過去自分を好いてくれた女性のことを悪しざまに言って話のネタにするのはちょっと下品だし余りお勧めはしたくない。でもやっちゃうときあるよね。

あるいは、これはかなりの高等技術だが、「なんでそう思ったの?」と逆に質問するケースもたまにある。常人には恐ろしくてできないし、たぶん女の子に臆面もなくこんなことを言える男はモテるんだと思う。それかバカなんだろう。僕は両方見たことがある。

また、「モテ」の定義も人により異なり、曖昧である。

飲食店で知らない異性によく連絡先を渡される等の常軌を逸した人気っぷりを「モテ」とすることもあるし、単に女友達が多いとか、今年に入って2人に告白されたとか、ぐっとハードルを下げても「モテ」とみなされることはある。もっと言えば、「なんかいい感じの子が割といる(ように見える)」だけで「あの人モテるなぁ」と思われることもあるだろう。会話の流れの中で「モテる」という状態を瞬間的に定義することは困難である。

つまるところ、「モテるでしょ?」は質問ではないのだ。

仮に「自分はモテている」という自覚があったとしても、「モテ」の定義が人により異なる以上、言葉の選び方こそあれ「モテるでしょ?」に「YES」と答えることは己が自己評価の高さを衆目に晒す以上の意味を持たない。というか、そんな風に答えようものなら「モテるでしょ?」と尋ねたその口で「え~どんな風にモテるの」「モテエピソード聞かせて~」と若干以上の嘲りを含んだ調子で追撃を加えられることは火を見るよりも明らかなので、前述の圧倒的強者かバカ以外はまずこの地雷は踏まない。この時点で既に質問としての機能を失っている。

質問でなければ何なのか。「モテるでしょ?」は符牒である。

符牒とは、分かりやすく言うと合言葉。町民に変装した忍者が味方陣営の武士に市中で情報を伝えるときのアレだ。

「"やぁ、秋刀魚はどうだい、お侍さん"」
「"俺は秋刀魚より肥えた鰻を食いたいな"」
「"そうかい、それじゃあこいつをおひとつ"(機密書類が入った魚籠を渡す)」

この会話の内容に意味はないが、決まった質問に対して決まった答えが返ることで、互いに敵味方の区別をつけることができるというわけである。「モテるでしょ?」はこれと一緒。

「モテるでしょ?」と訊くとき、多くの場合、質問者の中で既にその人が「モテるかどうか」のジャッジは完了している。よって答えがどうであれその人の「モテ」についての評価が覆ることはほぼない。これは質問ではなく符牒だからだ。「モテる」と答えると斬られる。

また、返答の内容以外にも判断要素はいろいろある。「モテるでしょ?」と聞かれて露骨に嬉しそうな顔をする男はあまり言われ慣れていない(=実はモテていない=今は見えない何かしらの欠陥がある)のだろうし、即答で「いや~モテないよ(棒)」が返ってくる男はイヤというほど言われている(=たぶん本当にモテる)。これらを総合的に検証することで、「この男は何者か」をあぶりだしているのだ。高度な情報戦だ。合コンでは非常に有用な戦術だ。でも普通の飲み会で使う必要はなくない?

今回言いたいのはそれだけです。